あの人だれ?
その後の数日は、診療所の中で「あっ」とか「えっ」とか、さらに、こそこそと声を潜めて話す声があちこちでありました。後ろから見て、どうも、港町歯科クリニックにいる歯科医師にしては、見たことのない人だなあ、と思って、わざわざ私の正面まで見に来たスタッフもいました。院長の前髪長くなったよね?と不思議がっているスタッフもいました。
「見たことあるけど、一瞬誰だかわからなくて、挨拶するのに、間があいてしまうんだよね。」という話もあったようです。
ドクターキャップをかぶった私の目の前で、ややしばらく話した後で、突然気づいて「わ〜!」と驚きの声を発したクリニックサポーターの方もいます。
仲間の歯科医師との会合では、気を遣って何も気づかぬふりをしてくれながら、飲み会では、意を決して汗をたらしながら「ど、ど、どうしたんですか?」と話しかけてくれた気の良い先生もいました。
さて、何が起こったのでしょうか?
正解は、十数年間にわたり伸ばしていた「ロン毛(げ)」をばっさり切ったのです。失恋したわけではありません。心境の変化ですかといえば、それはありました。毎日、ころころ変わっていますから(笑)。
その日の朝、家族みんなが利用するところへ散髪に行きました。いつものように、シャンプーから始まりました。そろそろと髪を切り始めた頃、昨夜遅くまでお勉強をしていたため、睡魔が押し寄せてきました。背中をまるめて、ちっちゃくなって居眠りをしてしまったのです。
ふと気づくと、床に目がいきました。そこには、かつて見たことのない程の、たくさんのカットした髪髪髪…。なんと、私の知らぬ間に、妻と美容師さんとで、散髪前に完璧な打ち合わせが行われていたのでした。
なんてこった!寝てる間に、そのたくらみは、みごとに終わっていました。
髪が短くなって、その洗いやすいこと、楽なこと。
イメチェンですかと言われることもありますが、そんな心配には及びません。もともと、たいしたイメージはありませんでしたから。強いていえば、マンガの「ちょんまげ課長」だったでしょうか。
困ったことといえば、ドクターキャップがよくずれるようになったこと。90度くらい回転しても気づかず診療していると、スタッフが遠慮気味に、「あの〜、帽子が曲がっています。」と言われてわかりました。キャップをヒモで止めるのですが、頭の後ろ中央にあった尻尾のような髪がちょうど良い固定場所となっていたのです。それがなくなってしまい、左右にずれるのです。だいぶ気をつけるようになりました。
来院した人たちは、ちょっと見ただけで、すぐにわかって声をかけてくれる方もいれば、気づいても素知らぬふりをしている心優しい方、まったく気づかない方など、いろいろなようです。久しく来院していないあなた!どうぞ、見に来てください。兎にも角にも、心機一転、診療に励んでいます。